ふらりと立ち寄った、あるラーメン店。
こだわりのスープが売り物とか。
まだ若い店主の元気な声が響く。
ラーメンを注文した客の携帯電話が鳴った。
込み入った内容らしい。客は話しながら店の外へ。
出来上がったラーメンが席に置かれた。
客はなかなか戻ってこない
▼しばらくして席に着いた客がラーメンに手を伸ばそうとした。
その時、店主はさっとラーメンの器を引いて、湯気の立つ作りたてに取り換えた。
驚く客に「お客さんに、冷めたラーメンは食べさせられませんから」
▼「2杯分の料金を」との申し出を固辞した店主。
そのTシャツの背中に書かれた文字に目が留まった。
「一杯入魂」。野球の「一球入魂」のもじりだろうか。
なるほど。この店のラーメンがうまい理由が分かった
▼仕事帰りに乗った、ある路線バス。
停留所に止まるたび、運転手が車内アナウンスを繰り返す。
「週末の金曜日です。1週間、お疲れさまでした」
▼バスを降りるお年寄りには「寒いですから気を付けて」「自転車にご注意ください」。
あえて言えば「一停入魂」か。
学生たちが「ありがとうございました」と笑顔で降りていった。
外の風は冷たいが、車内は何だかポカポカと
▼ラーメン店主とバス運転手。
仕事は違っても、心を込めて最良のサービスを提供しようというプロ意識には通じるものが。
料金はいつもと同じなのに、すごく得をした気分にしてくれた。
=2018/01/23付 西日本新聞朝刊=
世の中、こういう人だけではないけど、というより稀(まれ)な話し。
でも、プロならこうありたいと思う。